京都御所の西(烏丸通と下長者町通の交差点)、蛤御門の向かいに狛犬の代わりにイノシシが迎えてくれる変わった護王神社があります。護王神社は、和気清麻呂と姉の和気広虫を祭神としてお祀りし、足腰の怪我や病を治癒するご利益があるとして人気の神社です。
その護王神社にて年に一度開催される「亥子祭」が11月1日に執り行われましたので見に行ってきました。
護王神社へのアクセス
護王神社へは、京都市営地下鉄烏丸線丸太町駅が最寄りの駅となります。駅からは、烏丸通を北に歩いて徒歩約5分です。
護王神社とは?
和気清麻呂と宇佐八幡神託事件
護王神社の祭神は、和気清麻呂と姉の和気広虫です。
和気清麻呂は、日本史の教科書にも登場する有名な人物です。
奈良時代末、時の天皇に称徳天皇(孝謙天皇)に寵愛を受けた僧侶 弓削道鏡が、神からのお告げを装って天皇の地位を狙おうとした企み。その企みを和気清麻呂が暴いて阻止したために道鏡らの怒りにふれて大隅の国(鹿児島県)に流刑となります。それが、宇佐八幡神託事件(道鏡事件)と言われます。
和気清麻呂とイノシシ
九州への配流への途中、和気清麻呂は暗殺の危機を迎えます。
清麻呂の後を追って暗殺の手が迫りましたが、突如雷雨が発生して辺りが暗くなり、300頭ものイノシシの大群が現れ清麻呂は暗殺の窮地から脱することができたそうです。その故事により、護王神社ではイノシシを守り神として祀られています。
配流に遭う際に足を負傷していた清麻呂でしたが、イノシシに命を救われた後に不思議と足の怪我が癒されたことから、足腰のご利益も授かることができる神社としても信仰を集めています。護王神社には、狛猪をはじめ全国から奉納された多数のイノシシの土鈴や置物、色紙、剥製などが置かれています。
護王神社ができるまで
道鏡の失脚によって政治の舞台に復権した清麻呂は、数多くの業績を残し平安遷都の立役者となりました。また、天皇の危機を身を挺して護った勤皇の忠臣として、楠木正成らと並び功績が称えられ、旧10円札の肖像にも選ばれています。
また姉の広虫も多くの孤児の救済事業に尽力した功績が称えられ、共に祀られています。
和気清麻呂、広虫姉弟の物語は、護王神社の外壁に絵物語が掲示して説明されています。ご訪問の際にはご覧ください。
和気清麻呂を祀る神社は当初、清麻呂の御廟のある高雄山神護寺にありましたが、明治天皇の勅命で現在の場所に移されました。
年末年始には、境内中央にある舞殿前に大きな干支が描かれた絵馬が掲示されることでも有名で、年賀状作成時期になると写真を撮りに来られる方も多い神社です。
亥子祭
亥子祭は、平安時代の宮中で行われていた年中行事「御玄猪」を再現したお祭りで、毎年11月1日に執り行われます。
御玄猪(おげんちょ)と呼ばれる亥子餅(胡麻・小豆・栗)を供えたあと、皇室献上のために京都御所へ亥子餅を運ぶ提灯行列を行い、提灯行列が神社に戻ったあとは、参列者に亥子餅が振舞われます。
「御玄猪」とは、平安時代に亥の月、亥の日、亥の刻に餅を食すると病気にならないと考えられており、天皇自らが餅をついて振舞ったことが由来とされています。
護王神社での亥子祭は、昭和35年(1960)から開催されています。一時は途絶えた祭事でしたが、京都御所とも近く、亥を祭る神社としてご縁があることから護王神社にて再興されました。歴史の浅いお祭りではありますが、平安朝古儀に則った由緒のあるお祭りとして受け継がれています。
御舂ノ儀(午後5時30分頃)
禁裏御玄猪調貢ノ儀(午後6時30分頃)
引き続き 直会式・亥の子餅囃搗き
(午後8時30分頃終了予定)
本殿ノ儀
宮司が、本殿にて清めの祓いと祝詞を奏上する儀式。
御舂ノ儀(おつきのぎ)
雅楽が流れる中、平安衣装を身に纏った宮司以下祭員と5人の奉仕女房が、舞殿の上で無病息災を祈って御玄猪(亥子餅)をつく祭事を行います。
まず最初に給仕女房が御玄猪(亥子餅)を作るための道具や材料を運び込み、儀式を執り行う準備を行います。
一ノ女房が臼、二ノ女房が杵、三ノ女房が粉餅、四、五ノ女房は水筒を順に運び込み、その後一ノ女房が白菊、双葉紅葉、鴨脚(いちょう)、忍草などを飾り、二・三ノ女房が軒忍(のきしのぶ)を飾ります。
準備が整うと上座に宮司が座って天皇役を務め、下座には殿上人役の祭員と女房が5人ずつ対面に座ります。
- 亥子祭の儀式が行われる舞殿
- 男女5人の祭員と女房
- 宮司が天皇役となって餅をつく
上座に座った天皇役の宮司は、座ったままの作法で2本の柳の杵と小臼を使って悠長に餅をついていきます。
「神無月時雨の雨の降るごとに、わが思うことをかなえつくつく」と殿上人役が左袖で口元を隠しながら唱えると天皇役の宮司と殿上人役が「いのちつくつかさ」と応えます。これが終わると箸を使って臼から取り出す仕草をします。1回目の餅は「黒」を表す胡麻の餅がつかれており、公卿などが賜る餅なのだそうです。
2回目以降も同じ流れで祭事を行いますが、2度目は「赤」を表す小豆がつかれ、殿上人が賜る餅なのだそうです。2度目は奉仕女房が左の袖で口を隠し「いのちつくさいわい」と唱えます。
3度目は「白」を表す栗の餅がつかれます。殿上人以下が賜る餅で、身分によって餅の種類が異なるようです。3度目は殿上人と奉仕女房の掛け合いの唱和となります。
- 舞殿の中の様子をライブ中継
- 投影されている祭事の様子
- 観覧席から祭事の様子がみることができます
3種類の御玄猪(亥子餅)がつきおわると神殿に餅が奉納されます。神殿に運び込まれた際の中の様子はビデオカメラが追いかけて中継していました。
- 神殿にお餅を奉納する様子
- 平安朝古儀に倣った祭事
奉納が終了すると、準備の際と同様の作法で女房たちがゆっくりとした所作で道具などを片づけていきます。悠長ながらも歴史と優雅さを感じさせます。
- 女房役が道具を片づけるようす
- ゆっくりとした所作が優雅さを感じさせます
祭事の道具が全て片付けられると女房役と祭員らは、この後の禁裏御玄猪調貢ノ儀の準備のために退出することとなり、天皇役を務めた宮司が参列者に向かってご挨拶と亥子祭の歴史と祭事について解説をされていました。
亥子祭には、宮内庁京都事務所や皇宮警察からの来賓を迎えており、御所へ御玄猪(亥子餅)奉納に向けた協力体制が整っているようです。
- 外では長い裾を手前で畳んで抱えるようにして歩くようです
- 宮司から挨拶と亥子祭の説明がありました
禁裏御玄猪調貢ノ儀(きんりおげんちょちょうこうのぎ)
御舂ノ儀(おつきのぎ)で作られた御玄猪(亥子餅)を宮中にお供えするための提灯行列が行われました。祭員が先頭になって護王神社から京都御所へ向かいます。
提灯行列に参加するのは、祭員と女房、そして事前に千円以上の志納金を支払った一般の参加者のみ。志納金を納めれば、羽織と提灯を貸して頂け、当日のおでんの引き換え券と亥子餅をお土産に頂くことができます。午後4時より社頭で受付(予約受付無し)。
- 護王神社正面から御所へ向かいます
- 護王神社の鳥居と狛猪。提灯行列の出発
- 提灯行列の先頭の様子
提灯行列は、護王神社の鳥居から出発し、烏丸通を少し歩いて下長者町通の交差点の横断歩道を御苑に向かって渡り、そこから蛤御門を通って御苑に入りました。暗闇の中、行列から鳴らされる太鼓の音と提灯の灯に照らされた護王神社の幟が揺れる様子は厳かで幻想的な雰囲気が漂います。
- 太鼓の音に合わせて行列が進行
- 烏丸下長者町の横断歩道を渡る一行
- 献上が終了して戻ってきた一行
御苑に入った提灯行列は、御所の清所門へ向かいます。清所門では、宮内庁の職員が到着を待っており、御玄猪(亥子餅)を献上し、祝言(しゅげん)を奏上します。この後、その他の方々が一同に「いくひさ」と寿詞(よごと)を上げます。これで禁裏御玄猪調貢ノ儀(きんりおげんちょちょうこうのぎ)が終了です。
直会式(なおらい)・亥子囃搗き(いのこばやしつき)
献上が終わった提灯行列一行は、護王神社に戻り本殿前にて祭神にご報告を行います。祭事に参加した宮司と祭員と5人の奉仕女房らが本殿の前に一堂に並び、記念撮影などを行っています。
因みに給仕女房役は、一般からの公募となっているそうで、麗しい女性たちが給仕女房としての大役を演じておられました。
【応募要件】
・高校生以上満30歳迄の未婚の女性(但し18歳未満の方は保護者の承諾が必要)
・正座などの作法に必要な姿勢および動作が可能な方
・祭典当日(11月1日)の13:00から21:00までの全日程に参加可能な方
・事前の作法練習に全日程参加可能な方
【募集人員】
定員/5名(定員以上の応募があった場合は選考または抽選となります。)
【その他】
参加費無料。奉仕者には記念写真・DVD・亥子餅を進呈いたします。
※本募集はアルバイト募集ではありませんのでご注意下さい。
その他詳しくは神社までお問い合わせ下さい。
直来式では、提灯行列に参加された方々におでんが配られ、他の参列者にもお茶やお神酒などが無料で振舞われていました。(提灯行列に参加された方に配られた後で残ったおでんは、一般参加者にも振舞われていました)温かいおでんを食べて身体を暖めている間に会場では饗宴の儀の準備が進んでいました。
- 参列者に振舞われたおでん
- 頂戴したおでんの具材
- 饗宴の儀で作る亥子餅
- 頂いた亥子餅
饗宴の儀では、亥子祭に参列された方々に護王神社オリジナルの亥子餅を作って振舞う儀式です。
餅をついている時に皆で亥子囃子を唱えて亥子餅を作り、無病息災を願って食べる催しです。
皆で亥子囃子を唱えながら作る亥子餅は、もち米にゴマ、黒砂糖、砕いたナッツなどが入っている護王神社オリジナルのレシピなのだそうです。
亥子祭の開始前に境内でも、京都の和菓子名店の鶴屋吉信が作る亥子餅が3個入り1000円で販売されていましたが、早々に売り切れていました。
亥の月 亥の日 亥の子刻
厄除 三種の 亥子餅
舂くつく つく つく
命つく つく それ幸いなぁー
猪しゃ 餅食って ほーい ほい
和気(わけ)さん お出まし えーい
えーい えい
平安朝古儀に倣った伝統的な祭事風景、王朝絵巻から出てきたような光景を間近に見ることができる貴重な機会です。じっくりと堪能したい人には充分な時間を過ごすことができますが、悠長な儀式ですのでごゆっくりとお楽しみ下さい。

給仕女房役の娘さんたち、綺麗だったわ~

祭事の行儀作法とか、練習したんだろうなぁ~

私も巫女のアルバイトしたことあるのよ、何か募集があれば応募しようかしら…

高台寺の狐の嫁入り募集には年齢制限なかった気がする…。
狐のお面被っているけどね。